森博嗣の「すべてがFになる」を読了
私にとっては2冊目の森博嗣だけど,1冊目は「喜嶋先生の静かな世界」だったので,実質的には森博嗣らしさを感じることのできる最初の本.
それで,感想
正直言うと,私はダン・ブラウンのようなもっと冒険的な内容を期待していたけど,これはむしろ本格ミステリーです.それも密室殺人という昔からよくあるテーマ.
ただしトリックは現代的で,なるほどよく考えられていると思った.
主人公の犀川という人物も,なかなか個性的で面白い.そして,自分の考えを語る場面が何度かあるけど,内容は非常に知的だ.でもあまり一般には受け入れられないエキセントリックな内容でもある.
こういうセリフを通して,主人公の個性を際立たせる方法は,シャーロック・ホームズとよく似ている.助手がいるのも全く同じ設定だ.
ただ,ホームズの助手は男性の友人であり同世代のワトスン博士だけど,犀川の助手は彼よりはるかに若くて,しかも抜群に頭がいい良家のお嬢様学生だ.これも現代ウケしそうな設定だ.この辺は明らかに狙っている.
なぜなら,これがもし男子学生の設定だったら,どんなにトリックが素晴らしくても一気につまらない話になると思う(笑)
トリックに関しては,なるほどこうすればいいのかと思った.だけど,これはコンピュータに関する技術的知識がある程度ないと,どんなに優れた作家でもさすがにこのような小説は書けないと思う.
そして,ネタバレになるからあまり具体的には書けないが,まるで「犬神家の一族」や「本陣殺人事件」を連想させるような派手で不可解な殺人であることも,古典ミステリーの影響が大きいだろう.
話の最後の方で刑事を含め関係者が一堂に会し,主人公の犀川が事件の説明をするところは,金田一耕助を彷彿とさせる.市川崑監督の映画がフラッシュバックするのは私だけだろうか?
私の記憶違いだったら申し訳ないが,確か森博嗣は
「売れてる本を読んでみて,なるほどこう言うふうに書けばいいのかと思って書いてみたら売れた」
などとサラッと言ったらしい.
おそらく,過去のミステリーにおいて重要なポイント,そして過去のミステリーにはない斬新な人物描写と舞台設定,それらを意識的か無意識的か分からないけど,巧みに盛り込んで大成功した小説のような気がする.
研究の世界でも,過去に分析されたデータに対して異なった手法で分析をやり直したら新たにこんなことがわかった,という内容の論文をよく見かける.この小説も同じようなオリジナリティの出し方だと思えた.森博嗣も研究者であるから,論文と同じような思考で考えたかもしれない.
ただ,私はダン・ブラウンのようなスピーディで動きのある展開を期待していたので,それとは全く異なったのが少しだけ残念だった(もちろん,それは私の勝手な期待ではあるのだが)
トリック,アイデア,舞台は新しいけど,その一方で,ミステリーの古典との共通点がいくつもあったので,どことなく懐かしさも感じた作品だ.
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