今日の出張先で,ある中小企業の社長の基調講演があった.
エンジニア上がりの社長だ.
中小企業と言っても,結構それなりの規模の大きな会社.そのような会社の社長の講演ということで,私自身も最初は興味を抱いていた.
参加者には若い大学生が多かった.主にそんな若い人向けの講演だった.その中で,この講演者は昔の自分自身を回想して,
- 若い頃はとにかく金持ちになりたかった
- 社長になることが夢だった
と語っていた.68歳と言ってたので,ちょうど昭和40年代後半〜50年代にバリバリ働いていた世代になる.私の父親よりやや下かな.とにかく,カネ,カネ,カネという言い方だったけど,高度成長期の「カネがすべて」という考え方の影響をまともに受けている世代だろう.だから,生きる価値をカネに一極集中しているのも分かる.
そして,年収で言うと全国の労働者の上位2%以内に入ると自慢していた.
- クルーザーを持っている
- 趣味にとてつもないカネを使う
- 唯一の悩みは,妻が湯水のようにカネを使うこと
などと言ってた.
単にカネを持ってることを自慢するつもりではなく,ガムシャラに努力すれば自分のように稼げるようになるんだという激励の意味を込めて言ったのだろう.
私はその事を理解したけど・・・
そういう考え,今の時代にはウケないよ.マジで.
私の父親の世代は,カネのために家族を顧みずガムシャラに働いていた.その姿を見ていた私やそれより下の世代は,薄給でもいいから家族のための時間と自分自身の自由な時間を優先して作りたいと考えた.
ただ勘違いしないでほしいのは,働きたくないとか,サボりたいとか,そんなこと言ってるわけではない.仕事はするし努力もする(そんなの当然だ).だけど,カネを稼ぐためにガムシャラに働くことだけが正しい価値観なのか?高度成長はあまりにも急過ぎたので,労働条件などあらゆる面で歪みが生じたし,先進国になった今でも,その歪みだけは残っている.
ほんの20年くらい前でも過労死が社会問題になっていたし,数年前にも,電通の社員が過労死した事件もあった.
今の若い子は過酷な環境で働いてきた親たちの背中をみてるので,高度成長期のような無理な働き方に拒否感を抱くのは当然だと思う.
でもこの社長さんは,
「やりたい仕事?有休?自由な時間?そんなことは仕事が一人前にできるようになってから言え」
そんなことを言ってた.
確かに仕事ができないくせに権利ばかり主張するのは今の若者の特徴だけど,それとこれとは話が別.バカみたいに働いても,成果が出せないと有休も取れないなんて,そんな社風の会社だったら私もごめんだ.
今はどこの企業も人材不足で困ってる.採用担当者は上層部から圧力がかかるので辛い立場にある.だけど,その上層部にいる社長自らが時代遅れの常識を振り翳したら,若者からするとこの会社はブラック認定だ.SNSや口コミサイトですぐ噂が広まる.そういうリスクをこの社長は想像できなかったんだろうかねぇ.この会社の人事担当者が頭をかかえている様子が目に浮かぶようだ.
将来的にも新卒採用については慢性的な売り手市場になる.大手ならいざ知らず,中小は若者の価値観を尊重したり,時代遅れの働き方を変えていかないと,ますます人が集まらなくなる.
それが出来ないなら,野心に満ち溢れてガムシャラに働く中国人を雇うべきだ.だけど,中小だと社員が英語を話せないことが多いから,本気で中国人を新規採用するところまでいかない.それに中国人は仕事を覚えたらすぐ辞めて本国に戻るよ.そういう別のリスクもある.
つまり,今後も中小は日本人の若者をアテにするしかない.
また,少々滑稽だったのは,質疑応答の時間で,
「こういう場で積極的に質問できる学生だったら,今すぐにでも内定を出す」
などと「上から目線」の言い方だったことだ.別にあなたの会社に就職したくねーよと学生は心の中で冷笑してるんじゃないか?何度も言うけど,今は売り手市場であることをお忘れなく.
結局,社長なんて普段の仕事で若者と直接接する機会がない.だから,若者の価値観を推し量るときは自分達が若者だった頃を基準にするけど,それがそもそも大きな間違いだ.時代も価値観も違いすぎる.
先ず社長自らが新人教育を担当してみるといい.新入社員のほとんどが辞めるから(笑).そうなれば若者の価値観が痛いほど分かるだろうし,人事部の大変さも理解できるだろう.
せっかく部下が築き上げてきた新卒採用の戦略を,今回の講演で社長が無神経に台無しにした可能性が高い.だけど,そのことに自覚があるんだろうか?
この会社の採用担当の気持ちをお察しします.他人事ながら自分のことのように憤慨してしまった.
私もどれだけ知ってるかと言われると,もちろん知らないことだらけだ.でも,少なくともこの社長よりは理解しているつもりだ.