【読書感想】百田尚樹「海賊とよばれた男」

朝活の30分読書で読んできた小説の2冊目と3冊目が,百田尚樹の「海賊とよばれた男(上)(下)」です.

これは出光興産の創業者,出光佐三をモデルにした小説.

「人間尊重」を第一に掲げて,社員は皆家族という心情で会社を経営してきたという,紛れもなく日本の経済史で後世まで語られる人ではないかと思う.そして,商人でありながら

「黄金の奴隷たるなかれ」

と部下たちに説いた.この2つの言葉がこの小説を貫く大きなテーマだ.

だけど不思議なのは,これほどの人なのに,本田宗一郎や松下幸之助のようにあまり名前が出てくることがない.それはなぜなんだろう?と思ってましたが,読了してなんとなくその理由がわかったような気がする.

出光佐三の行ったことは(小説では国岡鐵造だが),

  • 戦後の大混乱期でも一人として解雇しなかった
  • 出勤簿もない,定年退職もない
  • 消費者のため日本の将来ため,欧米の石油メジャーと倒産覚悟で徹底的に戦った

こういう型破りで破天荒な生き方は,確かにカッコいいし憧れる.だけど,小説を読んだ限りでは,国岡鐵造は理念や理想が先行するきらいがあり,しかも自分の意見を絶対曲げない頑固一徹者.もし,出光佐三の実像が国岡鐵造と同じであったら,経営者という点では欠点も多かったのではないかと思った.

だから,ビジネスの成功者としてあまり話題に上ることがないのかもしれない.むしろ,無理難題を着実にこなしていった重役たちの方がとても優秀だったことが窺い知れる.

その辺は,あくまで小説なので誇張している可能性もあるけどね.

Fuji City harbor

などと書くと,否定的な感想に思えるかもしれませんが,実は主人公の国岡鐵造にとても憧れた.

私は人の上に立つような役職には今後も就かないと思うけど(就きたいと全く思わないけど),私利私欲ではなく「人間尊重」を自分の価値観の中心に据えるべきだと改めて思った.

明治〜高度成長期にはこのような財界人が他にも少なからずいたはずだ.そして,人間尊重を優先したために身を滅ぼしていった名もなき経営者が大勢いたのではないかと思う.

逆に,現代社会は「私利私欲の何が悪い」などと開き直り,黄金の奴隷と化した経営者がたくさんいる.むしろ,今の時代にこそ出光佐三(国岡鐵造)のような経営者が必要なのかもしれない.

「黄金の奴隷たるなかれ」

本来であればこの言葉から最も遠くにあるのが「商い」である.

その商いを生業とする人物の生き様を通して,真逆の哲学を語っているところがこの小説の面白さであり,国岡鐵造こと出光佐三の最大の魅力だろう.

読書開始:2022年5月3日

読書終了:2022年5月24日

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