私が博士を取得するまでの紆余曲折を記事として残しておきます.
以前,別のブログで記事として書いた内容ですが,そちらのブログを閉鎖したのでこちらに移行するつもりです.一気には大変なので少しずつ移行します.
目次はこちらです↓
6. 残りモノに福
公務員になれず,大手民間企業の紹介も蹴って,就職先が決まらないまま年が明けた.そして 修士課程の修了間際の3月.私はある筆記試験を受けていた.
それは,大学院博士後期課程の入学試験
結局,私は博士後期課程に行く事になった.他に道がなかった.
博士後期課程の試験は形だけのもの.合格したが,これから3年間あのアカハラ助手と一緒にいることになる.腹を括ったといえばカッコいいかもしれないが,実際のところ半ば自暴自棄であった.
修士からのエスカレータ進学なので入学金はかからない.授業料と生活費は日本育英会の奨学金と家庭教師のバイトを合算すれば自分でなんとかできる.とりあえず親には迷惑をかけずにすむ.それだけが救いだった.
私は修士までやってきた研究テーマに何とか見切りをつけて,別のテーマに取り組みたいと思っていた.助手の専門と被らないテーマにしたかった.
そこで,進学後は研究テーマを模索し始めた.だけど,今の私からすると,これがそもそもの間違いだと思う.博士課程に進学した後で呑気にテーマを考えているのでは遅すぎる.
もしテーマを変えるのであれば,教授や助教授が取り組んでいるテーマをそのままもらって,それをベースにしてわずかでもオリジナリティを追加してフルペーパーを通すというやり方が最も迅速な方法である.
もちろん,当時の私はそんなこと全く気付かなかったので,今思うとどこまでバカなんだと思ってしまうが.
この頃から教授は研究以外の業務でかなり多忙になってしまった.その多忙な業務の1つが学会の全国大会の運営だった.もちろん,研究室のメンバーはすべて駆り出された.別の研究室も手伝うことになり,一大イベントになった.
だけど,単に運営業務を担うだけでなく開催地ということで発表もしなければならない.もちろん私も修士や学部生に混ざって発表したが,その時に偶然の出会いがあり,私は今の職場にスカウトされることになる.
場所は懇親会の席だ.そこでたまたま近くにいた方と雑談する事になって,いろいろ話していた時に,
「今,ちょうど欠員があるんだけどうちにこないか?」
と誘われた.どこの馬の骨とも分からん学生を,その場の勢いで誘っちゃうんだから酒席というのはつくづく恐ろしい(私にとっては有り難い話だったんだけど).
ところが後で知ったことだが,その方は私の指導教授と知己で,このスカウトはあらかじめ裏で話がついていたらしい.だけど,色々事情があってこの話は極秘裏に進められ,絶対に口外するなと教授から念を押された.
仕事は一応は研究職.研究だけの専業ではなく,その他諸々の仕事がたくさんあるのだが,贅沢など言ってられる身分ではない.
そして,年度替わりギリギリになって就職する事が正式に決まった.博士後期課程は1年だけ在籍して退学した.
研究室の最後の壮行会の時,私だけでなくあのアカハラ助手も転籍することを初めて知った.
風の噂で「喧嘩両成敗」などという言葉も聞いたが,喧嘩というのは対等な立場同士で成り立つ.私は一方的にハラスメントを受けた立場だったので,とても対等とはいえない.
当時は,斯様なまでにハラスメントに対する世間の認識が未熟だった.
ところで,この頃(1990年代後半)は国の無謀な大学院重点化政策により,どこの研究室でも博士課程の学生が溢れかえっていた.だけど,後に彼らは博士号を取得しても就職先が見つからず,非正規の任期付き研究員や任期付き教員として,全国各地を点々と渡り歩くことになる.「高学歴ワーキングプア」などという言葉もこの後出てくる.
私がもしあのまま博士課程に在籍していても,博士号を取得できず退学していた可能性は非常に高い.もし退学などしたら,非正規雇用どころか高校生と一緒にコンビニのバイトをしていただろう.
そう考えると私はとても運がよかった.裏で就職できるよう手を回していただいた指導教授と,スカウトしていただいた現在の上司に対して,私は一生頭が上がらない.
だけど,就職したとはいえこれで一件落着ではなかった.就職先が研究職である以上,博士は必須である.問題を先送りしただけで,できるだけ早く取らないといけないのは確かだった.
しかし,実際に博士号を取得するまで,ここからさらに15年もかかるとは,この時全く予想してなかった・・・
高学歴ワーキングプアの問題は現在でも解決されていない.しかし,もうその世代は40代後半〜50代になっており,大学院重点化政策によって生み出されたこの問題を,国はうやむやのままフェードアウトさせるつもりだろう.
そのあたりのことを書いた本を読む都度,私は他人事には思えず居た堪れない気持ちになる.もし興味がある方は下記がおすすめです.