私が博士を取得するまでの紆余曲折を記事として残しておきます.
以前,別のブログで記事として書いた内容ですが,そちらのブログを閉鎖したのでこちらに移行するつもりです.一気には大変なので少しずつ移行します.
目次はこちらです↓
7. 社会人博士課程
突如降って湧いた話を受けて,私は修士のまま就職することになった.だけど問題は出来るだけ早い時期に博士を取得することだ.研究職である以上,博士は絶対必要である.
私は博士論文のテーマさえはっきり見つからないまま博士後期課程の1年間を過ごしたようなもの.ましてや,就職して本務に取り組むようになると,ますます自分の学位論文ネタなど考える余裕がなくなってきた.
それに,ここの職場で扱ってる技術は時代遅れのローテクが多く,今更そんなことするの?という内容が多かった.だから,研究と言っても本務内容はほとんど論文にならなかった.
さらに,どういうわけか研究とは関係のない雑役が多かった.不要な会議や無駄とも思える非効率な事務仕事で時間がどんどん奪われていった.
私の博士取得は早くも黄色信号が灯り始めた.
だけど,何もしなかったわけではない.
私は学生時代から微分幾何や多様体論をベースとしたある工学手法に驚愕し,その内容で研究ができないものかずっと模索していた.高額な数学書を購入して,コツコツ勉強していたのも確かだ.
当時の一番の問題は,理論系でない研究室の出身だったにもかかわらず,独学だけで純粋数学を使った研究が出来ると思い込んでいたことだ.世の中にはそういうことが出来る人もいるだろうけど,私のような愚鈍な人間にはほとんど不可能だ.
「敵を知り己を知れば百戦殆うからず」
は孫氏の兵法だが,私は「敵」を知らなかったばかりか,「己」の事を一番知らなかった.
就職してから遅々として進まなかった私の博士研究であったが,その事に関して教授から苛立ちのメールが届くようになった.私をスカウトした上司に相談した結果,社会人博士課程に入学する事を勧められた.
これにより,年限が決まるので博士研究も進むだろう(進めざるを得ないだろう)と上司は考えたに違いない.
だけど,私の博士研究はこの時完全に暗礁に乗り上げていた.数学をベースにした理論研究は3年間ではとても無理だ.
博士課程がスタートした時点で研究テーマが決まっていないということは,それだけでもう黄色信号が点っていると言ってもいい.そのことは学生時代に一度経験しているのでよくわかっているつもりだった.
そのため,博士研究は(あまり気が進まなかったが)修士の頃の研究テーマの延長で進めることにした.全く新しいテーマに取り組むのは危険だと判断したのである.
成果はある程度出た.この分野ではかなり権威ある国際会議で採択され,ヨーロッパに渡航して発表してきた.この分野では世界ナンバー2の学会なので,
「あそこで発表したんだ!」
と言ってもらえるレベルである.プロシーディングスもシュプリンガーから出版されるので論文扱いである.
ジャーナルのフルペーパーの業績ではなかったが,教授は言うには,
「論文博士だとフルペーパー3本が条件だけど,コースドクターは条件がない.主査次第だ」
ということだった.
少しだけ説明すると,博士号を取得するには2つの方法がある.課程博士(コースドクター,甲種)と論文博士(乙種).だ
課程博士は,大学院博士課程に入学して,主査となる教授の指導を3年間受けた後に博士論文を書いて審査を受けるという方法.こちらが一般的だ.一方,論文博士は,入学することなく博士論文を提出して審査されるという方法.
論文博士は入学しないので入学金や授業料はかからない.だけど,論文博士も指導教授となる主査や副査が必ずつくので,いきなり自前の博士論文を大学に持ち込んで認められることはない.
なので,課程博士も論文博士も主査の指導を受ける点は全く同じだ.ただ,論文博士は課程博士と違って年限がないので,その分,審査が厳しくなる.そして,論文博士も課程博士も多くの大学で申請の基準が内々で定められているが,論文博士は廃止の方向に向かっている.
一方,課程博士は入学金も授業料もかかる.決して少ない額ではない.幸い私はOBだったので入学金は割引になったが,それでもかなりの出費だ.子供はいなかったけど,妻に対してかなり後ろめたい気持ちになった.
だけど,課程博士に入学することで博士取得の条件がない.言い方を変えれば,授業料を払うことで条件を緩和してもらえるようなものだ.無事取得すれば金銭的な出費はなくなるし,職場での立場も安定する.
フルペーパーはなかったけど,権威ある国際会議で発表した業績があるから大丈夫だと私は思っていたし,教授も大丈夫だと言ってくれた.
再入学して3年目,最終年度になったとき主査から博士論文執筆のGoサインが出た.
やっと取得できる!
希望を胸に抱き,博士論文を書き始めた.
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